デジタル改革関連法案と電子契約サービスについて

デジタル化

いよいよ、「デジタル社会」の形成による経済の持続的な発展と国民の幸福な生活の実現を目的としたデジタル改革関連法案が、2021年5月12日に可決成立しました。施行日は2021年9月1日であり、各関連法の概要は以下のとおりとなります。

特に「デジタル社会形成整備法」においては、押印を求める各種手続についてその押印を不要するとともに、書面の交付を求める手続について電磁的方法により行うことを可能としています。今回は、こうした法整備の経緯ならびに実際に電子契約サービスを導入した事例を紹介しながら、その概要を解説します。

関連法名(略称)概  要
1.デジタル庁設置法デジタル庁の設置根拠や役割を規定
2.デジタル社会形成基本法デジタル改革に取り組む基本理念を規定
3.デジタル社会形成整備法個人情報保護法など関連法を統合するほか、行政手続きで押印を廃止しデジタル化に向けた法整備
4.公金受取口座登録法・預貯金口座管理法迅速な給付金支給などに活用できるようマイナンバーと預貯金口座をひも付け
5.自治体システム標準化法2025年度を目標期限として、地方自治体のシステム標準化と政府クラウドへの移行などを規定

1.デジタル時代の規制・制度について  

令和2年6月22日付の規制改革推進会議において、現在、デジタル技術の進歩が経済社会を大きく変容させており、経済の成長力を維持し、社会生活環境を改善するためには、デジタル化への対応が必須であるとされました。ここでは、今後、こうしたデジタル化の流れを加速するため、デジタル技術の活用を阻害する規制・制度を見直す必要性から、これら規制・制度の類型化と具体的な見直しの基準などその考え方と改革の方向性が示されています。その中では、今回のテーマでもある「デジタル技術の代替による対面・書面規制の見直し」について記載があるので、以下に一部を引用します。

(1)書面規制の再検証と見直し

・物理的な書面の作成・交付が義務付けられている規制・制度は、オンラインでの作成・交付できるよう、必要性を再検証し、見直すべきである

・国、地方公共団体の関与する行政関係書類は、デジタルガバメントの取組を推進し、書類手続の完全オンライン化を進めるべきである。オンライン化にあたっては、物理的文書を単に電子媒体に置き換えるのではなく、デジタルでの処理・活用が進むよう、デジタルを前提とした文書作成・提供がなされる必要がある。

・オンラインでの提出を前提とした書類作成・交付を義務付ける規制・制度は、書類自体の必要性の検証、添付書類や記載事項の簡素化、事業所単位での書類作成の企業単位への変更など、全面的な見直しを行うべきである。

例:行政機関向けの書面手続全般(署名・押印/添付書類)

・法令等によって民間事業者等に作成・保管が義務付けられている書類についても、同様に見直すべきである

     例:不動産取引における重要事項説明、定期建物賃貸借契約

            介護事業の指定・報酬関連書類の提出

(2)押印規制の再検証と見直し  

・押印は、本人確認や文書の真正性担保のため、行政手続において求められてきた。オンライン化を前提として、本人確認のための押印は印鑑証明を求める場合など、文書の真正性担保のための押印は、契約書等に限定すべきであるが、その場合であっても、電子署名等の他の代替手段を認めるべきである代替手段については、改ざん防止他の一定条件の下、幅広くデジタル技術での代替を認めるべきであり、従来型のICチップやシステム等の利用を前提とせず、クラウド、ブロックチェーン等の利用を許容すべきである

     例:民事訴訟法、電子署名法の証拠に関する推定規定

2.書面および押印を求める行政手続

書面および押印を求める行政手続は、「経済財政運営と改革の基本方針2020(令和2年7月17日閣議決定)」及び「規制改革実施計画(令和2年7月17日閣議決定)」に基づき、規制改革推進会議が提示する基準に照らして順次、必要な検討を行い、見直しされることとなりました。

書面を求める行政手続は、合計で22,084種類あり、令和2年3月末時点でオンライン化されていない手続は18,612種類ありました。このうち97.7%にあたる18,180種類の手続は令和7年末までにオンライン化されることとなっています。令和2年末までには、Eメール提出を認める等により、5,379種類がオンライン化されており、令和3年末までに、更に4,029種類がオンライン化される予定となっています。  

一方、押印を求める行政手続は、合計で15,611種類あり、うち98.9%となる15,493種類の廃止が決定され、既に15,188種類が令和2年度末に廃止されています

3.地方公共団体における押印見直しマニュアル

地方公共団体における押印の見直しについては、国が取組の考え方や基準に沿って「地方公共団体における押印見直しマニュアル」(令和2年12月18日初版・内閣府)を作成し、取り組む際の推進体制、作業手順、判断基準等を示しています。併せて、先行的に見直しに取り組んできた地方公共団体の取組についても紹介しています。

また、本マニュアルは書面・対面規制の見直しを対象としていませんが、今後、国の取組等を踏まえ、書面・対面規制の見直しマニュアルを作成する予定となっています。

4.電子契約サービスの需要と市場規模

「デジタル社会形成整備法」が成立したことにより、国や地方公共団体による行政手続以外にも不動産や建築を含む主要なビジネス領域において押印義務と書面化義務の原則廃止が進展したことから、企業の電子契約サービスに対する需要が急増しています。これは、書面契約から電子契約に切り替えた場合、「印紙税の削減」「事務労力・コストの削減」「契約締結までのリードタイムの短縮」といったメリットがあることもその要因となります。

日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)とITRがまとめた「企業IT利活用動向調査2021」によると、国内における電子契約の利用企業は2021年1月の時点で67.2%となり、2020年7月に実施した前回調査の41.5%から大幅に増加しました。電子契約の利用を準備・検討している企業も含めれば全体の84.9%に達します。

現在、こうした電子契約サービスを提供する事業者は14社あり、その市場規模も拡大しています。矢野経済研究所によると、2020年の電子契約サービスの市場規模は前年比58.8%増の108億円となる見通しで、2024年までに264億円の市場規模となると予測しています。

この市場で圧倒的なシェアを占める事業者は、弁護士検索、法律相談サービスを提供する弁護士ドットコムが運営している「クラウドサイン」で、電子契約を利用する企業の約80%が利用する国内シェア1位(導入実績15万社)となっています。一方、国内シェア2位の電子契約サービス「GMOサイン」を手掛けるGMOインターネットグループは、2020年4月、顧客が手続する際の印鑑廃止と、取引先との契約を電子契約のみとすることを表明しています。

5.電子契約サービスの導入事例

最後に、実際に電子契約サービスを導入したK社の事例について紹介します。これは、パートタイマーの労働条件通知書(雇用契約書)を電子契約に切り替えるため、電子契約サービスを利用した事例となります。

こうした対応が実現できた背景には、従来、労働基準法施行規則において、労働者を雇用する労働条件は、労働条件通知書として書面で交付する必要がありましたが、2019年4月1日の法改正により、以下の3つの要件を満たせば、電磁的方法での交付が可能となったことがあります。

  • 1.「労働者が希望した」こと
  • 2.「受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」によること
  • 3.「労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成」できること

これにより、労働条件通知書は、ファクシミリ、パソコンや携帯電話端末によるEメールのほか、ウェブメールサービス、SNSのメッセージ機能等による交付が可能となっています。

K社では、作業職員として1,000名ほどのパートタイマーを雇用しており、従来から、労働条件通知書(雇用契約書)に対する書面の交付作業、押印、郵便発送、受領確認、保管などその膨大な業務負担が課題となっていました。

前述のとおり、労働条件通知書(雇用契約書)が電磁的方法で交付可能となったことから、これら書面交付に関わる業務負担を軽減させるため、電子契約サービスの活用を検討しました。

検討の結果、労働条件通知書(雇用契約書)は、既にK社の就労管理システムにおいてPDF形式でデータ化されていたため、電子契約サービス事業者側では、このデータをクラウド上に取り込み、電子署名(本人確認や偽造・改ざん防止のために用いられるデジタル署名)を付与することで早期に運用が可能であることがわかりました。現在、本格稼働にむけたスケジュール化を進めており、スムーズな導入ができるものと期待されています。

さらに、今後は、営業事項に関する基本契約書においても、電子契約サービスを利用し、印紙税の削減と業務効率化を図る予定です。

以 上

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