新型コロナ関連倒産企業からの考察/経営の定期健康診断のすすめ

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中小企業診断士の武田です。

2021年7月12日に東京都・沖縄県に発出された緊急事態宣言は、全国21都道府県に拡大され、東京では、年初から9月末までで、緊急事態宣言が206日、蔓延防止等重点措置の適用が33日、今年になって、宣言・措置が発出されてなかった期間は、わずか33日でした。

連日、飲食店や宿泊業などの厳しい経営の実情や営業自粛に対する経営者の葛藤などが報道されています。

2021年5月、帝国データバンクから、『コロナ倒産の真相』(日経BP社発行)という新書本が出版されました。長年、企業の信用情報を取り扱ってきた同社が、未曽有の経済危機にある経営の現場の実情を明らかにした一冊として非常に説得力のある、興味深い内容が綴られていましたので、紹介します。

コロナ関連倒産の特徴

 連日のマスコミ報道から受けるイメージに反し、2020年の倒産件数は、7,809件で、2000年以降で最も少ない件数でした。これは、政府や自治体による緊急融資や助成金等の支援策が講じられたためと言われています。

 本書は、まず、コロナ関連倒産を「新型コロナが倒産の一要因、または、主要因となったことを当事者(社長や役員)または代理人が認めた場合、また、取引先への通知などにその旨の記載がされている場合」と定義し、コロナ関連倒産について定量的な分析を行っています。

1.コロナ関連倒産は、その大半が中小・零細企業

昨年来、百貨店、娯楽施設等の営業やイベント開催の自粛が、大々的に報道されてきましたが、上場企業でコロナ関連倒産に至った例は、レナウン1社のみです。一方、負債総額が5億円未満の倒産が約9割、中でも、1億円未満が54%となっていいて、コロナ関連倒産は、中小・零細企業が圧倒的に多いことがわかります。

2.倒産は月を追って増加傾向

2020年7月にGoToトラベルキャンペーン、10月にGoToイートキャンペーンが始まり、経済も徐々に回復していたところに第3波が日本列島を襲い、イートキャンペーンは、11月下旬から自治体ごとに、トラベルキャンペーンも12月28日で全国一斉停止となりました。多くの事業者にとってかき入れ時となる年末年始のはずでしたが、更に、1月からの緊急事態宣言の再発出に繋がったことが、『売上だけでなく、経営者のやる気をも奪った』と本書は述べています。倒産件数も12月以降、大きく増加し、今年に入ると、毎月、前年を上回るペースで増え続けています。

3.個人消費者向けの業種が大打撃

業種別では、「飲食店」「建設工事」「ホテル・旅館」の順に倒産が多く、業界でくくってみると、アパレル(製造・卸・小売)175件、食品(同)208件に集中しまいます。また、建設業は、コロナ禍に加え、ウッドショックによる材料の高騰や工事の遅延も影響していると見られています。

コロナ感染倒産事例企業の倒産の経緯

 次に、本書は、業界別に具体的な企業を事例に、倒産までの経緯と要因を分析しています。

  • アパレル業界
企業名倒産の経緯
R社 (一部上場 アパレル)・長年、業績低迷。2010年に中国繊維商社の子会社に ・2019年12月期、中国グループ子会社への売掛金未回収発生 ・コロナ禍で売上激減。同5月、親会社、金融機関の支援を受けられず倒産
RD社 (高級セレクトショップ)・海外メーカーとの独占契約を維持するために拡大路線を続ける ・多額の仕入により、不良在庫が恒常化、資金繰り悪化 ・2020年1月、社長が急逝し、社内が混乱していたところにコロナ禍
C社 (若い女性向けファッション・1986年創業。多店舗展開で2016年には、140店舗・143億円に ・出店費用、テナント保証金で借入金膨張。出店費用としての借入で資金を回す状態で、拡大に歯止めかからず ・2019年費税増税と暖冬で不良在庫増。評価損を先送りし利益を過大計上
  • 娯楽業界
企業名倒産の経緯
A社 (アニメ・フィギュアの 製造)・2011年、同人グループのメンバーにより設立 ・フィギュアは、開発期間が2年に及ぶこともあり、事業の構造的課題を抱える ・売上の増加に伴い、運転資金の借入金が増加。2019年には5億円に ・コロナ禍で中国部品のサプライチェーンが寸断。国内のイベントも中止となり、売上激減
E社 (アミューズメント施設運営会社)・全国で100店舗を展開に加え、機器を約1,000施設に設置 ・拡大路線により、売上は急拡大 ・出店・買収資金により借入金が膨張。破産申請時には、57億円に ・人件費の高騰、社員の横領事件があったところに、コロナ禍
RE社 (USJの施工・保守業者)・2010年創業、USJ(テーマパーク)との取引開始で受注急拡大 ・2015年 四国のショッピングモールの工事で2億円の回収遅延発生 ・資金繰りが一気に悪化。更に経営立て直しのために招聘した社員が社用クレジットカードを使いこむ横領事件が発生 ・2019年USJ新規アトラクションで業績が回復してきたがコロナ禍
  • 旅行業界
企業名倒産の経緯
Wグループ (オンライン旅行会社)・ツァーのネット販売で急成長、ホテル事業にも進出 ・元々、低収益なネット販売事業に加え、ホテル開発で資金繰りに課題を抱える ・昨今の関西地区のホテル開業ラッシュ、人件費高騰で収益性悪化 ・コロナ禍が発生し、固定費が止まらず倒産
Rホテル (滋賀県の     ホテル)・琵琶湖畔に1988年オープンの高級リゾートホテル ・バブル崩壊後、恒常的赤字経営に陥り、2004年破産・企業再生。京都のインバウンド需要で一時業績回復するも、京都のホテル開業ラッシュにより、古い設備、立地の悪さから業績悪化、コロナが追い打ちに
ホテルS (北海道の  観光ホテル)・1985年、屈斜路湖畔の自然やスポーツの体験型観光業として創業 ・2003年近隣のホテルを買収しホテル事業に進出 ・個人消費の低迷、温泉地区の地盤沈下、施設老朽化で業績低迷 ・2018年前代表夫妻による資金流用・着服事件が発覚 ・冬が明けて需要期に入る時期に新型コロナ流行でキャンセルが続出

  • 飲食業界
企業名倒産の経緯
T社 (東京の飲食チェーン)・2002年に関西うどん店を創業、多業態展開で急成長 ・2019年10月、関係会社AIK(厨房機器等販売)の架空取引が発覚  同社は、その連帯保証人となっており、弁済費用で資金悪化 ・2020年4月緊急事態宣言下、一部店舗を閉鎖し7店舗で営業再開するも倒産
T社 (寿司チェーン の運営会社)首都圏に寿司店を37店展開、売上を伸ばしていた。 ・近年、個人消費の低迷から収益性が低下、債務超過の状態に ・コロナ禍で、テナント先の閉鎖など旗艦店の不振で急激な売上低下と固定費、前月の仕入代金の支払いに耐えられず倒産
M社 (小田原・かまぼこ製造販売)・明治創業で小田原蒲鉾の御三家として発展。 ・2002年経理役員による8.5億円の横領事件が発生 ・自然災害と伊豆・箱根地区の地盤沈下で販売は鈍化 ・2020年3月期の債務超過は5億円を超え、年末商戦に向け生産再開をする 資金的な余裕もなく、10月に倒産
  • 製造業
企業名倒産の経緯
I金属 (自動車向け金属部品製造)・名古屋の老舗金属加工業者。三重県に複数の工場を建設し、事業拡大 ・2015年 タカタエアバックによるリコール問題で売上が大幅減 ・その後も収益力低下。再生支援協議会傘下で改善に取り組むも、資金ショートが 危ぶまれることから民事再生を申請
G電機 (漏電遮断器メーカー・1945年創業、冷蔵庫用リレーで成長。1970年以降、漏電遮断器、ブレーカー、 EMS受注で事業拡大。1994年には中国法人を設立 ・中国法人の人員確保や人件費高騰、円安などで収支悪化 ・ロックダウンで中国工場の稼働が急減し行き詰まる
B工業 (ビニルレザーの製造)・1947年創業、脱臭性の壁紙はその品質に高い評価を得、会社は成長 ・2009年鷺宮工場の自動倉庫に大型投資(借入金は年商の約半分) ・原油高騰や円高、リーマンショック、震災等の影響赤字が恒常化 ・主力行との関係が悪化し、主力行が他社に債権譲渡を行う ・2019年工場火災事故が発生、その後、工場での集団インフルエンザが発生。 コロナ禍による売上減少が、最後の止めになった
  • その他の業種
企業名倒産の経緯
M社 (接骨院チェーン)・2011年開業、独自の処術が人気で急拡大。2018年には、178店舗に ・2019年女性タレントをCMに起用、拡大路線の陰で、資金が枯渇 ・強引な販売手法や労働条件の一方的変更が話題に ・2020年2月、人事や財務の役員が相次いで辞任 ・追い打ちをかけたコロナ禍で店舗が休業に追い込まれ、4月に倒産
L不動産 (富裕層向け 土地売買)・2009年土地売買業として創業、2013年には建設業許可を取得、戸建の設計、 施工、販売を一手に手掛け、2018年には年商61億円までに成長急成長の歪で品質が低下、2019年ホテル案件で1.2億円損失計上、過去の 案件の追加工事で95百万円の負担。 ・2019年10月赤字決算を受けて、構造改革を進めるも、コロナ禍で不動産市況が 悪化、在庫の土地の売却も進まず、9月に倒産
S社 (メディカル系の翻訳)・フリーランスの翻訳家に業務委託するビジネスモデルで成長 ・時代の変化で、フリーランスの確保が難しくなり待遇改善を行うものの、 競争激化の中、人件費が増ただけで売上は伸長せず 。2016年から赤字経営が続き、給料や報酬の遅延が発生、コロナ禍による 受注低迷で倒産

日ごろから、経営の定期健康診断を

 これらの倒産事例から、コロナ禍は引き金であって、倒産に至るその真因は、既にコロナ禍以前より企業経営を蝕んでいたことが解ります。特に、過度な拡大路線や不正会計を含むコンプライアンス違反が多数見受けられます。また、業界は異なるものの、それまでの成功体験から環境の変化に対応を怠った事業判断のミスが倒産に繋がった例も複数ありました。

 私は、前職で経営監査の仕事に従事していました。

繰り返される企業のコンプライアンス違反に対し世の中から厳しい目が注がれ、日本でもここ数年、コーポレート・ガバナンス改革が進んできました。しかし、経営資源が厳しい中小企業には、監査役監査や業務監査の取り組みは、難しいのが実態です。

今回、コロナ関連倒産について考察してみて、世の中全体が天災や感染症のような想像を超える事業環境に陥ったときに、いかに経営の健康を維持できているかを定期的に確認する事業監査は、中小企業にとっても、事業存続に向けたいへん重要な取り組みではないでしょうか。

とは言え、中小企業にとって、監査役や専任のスタッフを配置することは容易ではありません。年に1度は、健康診断や人間ドックを受診される経営者の方も多いと思います。企業経営についても、年に1度は、定期健康診断をお勧めします。

そのような時は、湘南診断士ネットワークにご相談ください。

参考文献:

・株式会社帝国データバンク 情報部(2021年5月)『コロナ倒産の真相』 日経BP社

・株式会社帝国データバンク 『別企画:「新型コロナウイルス関連倒産」動向調査』

https://www.tdb.co.jp/tosan/covid19/pdf/tosan.pdf

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