人工知能学会副会長の栗原聡先生をお迎えし、シンポジウム「人とAIの共創~ 中小企業の未来をソウゾウする ~」を開催しました(2024年5月18日)

AI

湘南診断士ネットでは、同じ神奈川県中小企業診断協会の登録グループである「AIビジネス研究会」の共催で、著名なAIの研究者である栗原 聡 慶応大学理工学部教授をお招きして、AIが中小企業の未来にどのような影響を及ぼし、それに対して中小企業診断士としてどのような貢献ができるかを考えるAIシンポジウムを開催しました。

当日は、湘南診断士ネット、AIビジネス研究会の会員の他、神奈川県中小企業診断協会会員など、計58名の方に参加頂きました。

第1部 基調講演「人とAIの共創の可能性~AIは人間・社会をどのように変容させていくのか~」

第1部では栗原先生による基調講演を行いました。まず、AI研究の70年の歴史を振り返り、AIの歴史はそれを実現するコンピュータの歴史と共にあり、基本的なテーマは初期の頃に出揃ったものの、コンピュータの能力不足などによって実用的なAIは実現できなかったこと、実用的なAIを開発するためには、人間の常識や暗黙知といった膨大な情報を学習させる必要があり、ChatGPTの登場によって、ようやくAIが常識を扱えるようになったことをお話し頂きました。

次いで、生成AIの心臓部である大規模言語モデルについて解説頂きました。従来の自然言語処理はAIに文法を教えていましたが、この方法では限界がありました。自然言語処理には、文法を教えなくても単語の並び方の特徴が判ればよいのでないかという発想から、単語の出現確率をモデル化した言語モデルに膨大なテキストデータを学習させた大規模言語モデルが開発されました。

更に、栗原先生が開発されたAIを人間の創造を支援する手法についてお話しを頂きました。AIは業務を効率化することはできても、AI自体にものごとを創造する機能はありません。そこで栗原先生は、人間の創造を支援するために、人とChatGPTのインターフェースとして御用聞きAI(インタラクティブプロンプト生成AI)を開発されました。御用聞きAIは誰でも容易に使えるので、AIの民主化にも役立つため、高齢者を含めた多くの人がイノベーションを起こせる可能性があり、日本経済の再浮上にもつながります。

最後に、中小企業のAI活用についてお話し頂きました。地方の中小企業には、そもそもAIに関する情報が届いておらず、地方には専門家もいません。AI利用の格差を埋めるために、どこでもAIを利用できるインフラを国策として整備し、専門家が支援をすれば、やりたいことにAIを利用できるようになります。解決すべき課題は現場にあるので、現場を知る者でないとAIは導入できません。まずは、現場の若手社員を1人でもよいので、1年間仕事から解放してAIを使いこなす能力を身に着けさせ、この社員を核として社内のAI活用を進めることを提案頂きました。

第2部 パネルディスカッション「AIがもたらす2030年の中小企業の姿」

主に中小企業診断士からなる参加者から事前に回答頂いた、支援先等の中小企業の業務について2030年の状況を想定してアンケートの結果を基に、主催者団体のメンバーがモデレータとパネラーを務めました。アンケートは、①AIに代替される業務、②代替されない業務、③AI導入がもたらすポジティブな効果、④ネガティブな効果、などについての質問で、パネラーからの意見に対して栗原先生からコメントを頂きました。

AIに代替される業務(湘南診断士ネット会員 吉江氏)

吉江氏より、アンケートの結果から「データ処理・分析業務」を取り上げ、勤務先でデータ処理・分析を行っているが、AIが普及すると自身の優位性がなくなることを危惧しているとの発言がありました。

これに対して栗原先生より、AIはデータ処理・分析に強いが、どのデータが必要かは、人間に自明でもAIには自明ではない。何が必要か、問題の本質はどこにあるかは人間が考え、後の処理はAIにやらせればよい。AIは人間の写し鏡で、人間に知識があればあるほど使いこなせる。人間とAIは棲み分けられる、とのコメント頂きました。

AIに代替されない業務(湘南診断士ネット 山本会長)

山本氏より「高度な人間関係を必要とする業務」について、人事担当として採用の際にAIを利用した適性検査や人材マッチングのサービスを多用しているが、最後は人間が面接して決めているのでAIには代替できないと思うが、今後技術が進めばAIでの代替が可能なのか、との発言がありました。

これに対して栗原先生より、人間は必ずしも合理的に考えないが、コンピュータは合理的なので人間の考えと合わない。道具としては正確性が求められるが、人間関係の信頼は正確性だけではなく、自分の心をいかにくみ取ってくれるかが求められる。いずれはAIできるようになるかもしれないが、非合理的な感情をAIが扱うのは一番最後になると思う、とのコメント頂きました。

AI導入がもたらすポジティブな効果(AIビジネス研究会 小泉代表)

小泉氏より、「意思決定の効率化」について、どこまでを自動化してどこから人間が行うといった線引きが難しく入り混じる。意思決定するのは管理職で、管理職がデータを読み解けないとAIを上手く使えないと思う、との発言がありました。

これに対して栗原先生より、これからの意思決定は、AIが出してくる案の中から人間が選ぶことになる。AIに提案の理由を説明させて、それを選ぶ能力が重要になる。最後は人が選んだということが重要で、AIがどんなに優秀でも人間ではない、とのコメントを頂きました。

AI導入がもたらすネガティブな効果(AIビジネス研究会会員 堀野氏)

堀野氏より、「職業技能の喪失」について、新入社員に教育の一環として議事録を作成させることで、会議に集中し、専門用語を覚え、要約する力などが鍛えられた。最近はAIの議事録作成ツールがあって楽だが、教育の機会が失われると思う、との発言がありました。

これに対して栗原先生より、要約する能力を養成する手段は議事録作成だけではない。人間が何に頭を使うのか、根本的な変化が起きる過渡期に入ったと思う。AIによって今ある技能は失われるのは確実だが、新たに獲得できる能力・職業がある。ソロバンが電卓に置き換わった時や馬車が自動車に置き換わった時と同じで、今あるものが無くなることは想像できるが、これから出てくるものは想像できないので、どうしても不安が先行する、とのコメントがありました。

2030年にAI導入による効果が大きいのは、中小企業か大企業か(湘南診断士ネット会員 井上氏)

井上氏より、アンケートの結果は、大企業との回答が50%、中小企業が25%、どちらも同様が25%。自分は大企業よりもむしろ中小企業の方が効果が大きいと考えたが、大企業だと社内でAI導入を指示しても意思決定に時間がかかる。ワンマン経営の中小企業の方が一気に導入が進んで効果が高いと思う、との発言がありました。

これに対して、栗原先生より、大企業の社長は高齢でAI導入の判断が難しいといった話を聞くが、中小企業はお金がないので導入できない。国策でAIインフラの整備を含めたAI活用を後押しする必要があり、これができれば中小企業の方が導入が早くなるかもしれない、とのコメントがありました。

スーパー知能と人間(井上氏)

最後に井上氏より、ソフトバンクの孫さんが、2030年位になると人間をはるかに超えるスーパー知能みたいなものが出てくると言っている。アプリやサービス開発が自動でできるようになりつつあり、人間はいらなくなるのではないか、との問いかけがありました。

これに対して栗原先生より、若手のプロ棋士はAIを手本に使っており、AIから学んで将棋の打ち方が変わった。この世界は人間が生きている世界なので、スーパー知能ができても人間がやることはなくならない。スーパー知能ができると、人間は圧倒的な速度でAIに抜かれる。格差が大きすぎると、人間が蟻と戦わないように、AIは人間に興味を持たないし、人間はAIのことが判らない。支配するしないではない。楽観的かもしれないが、お釈迦さまのようなスーパー知能が見守る中で、人間が孫悟空のように自由を謳歌しているのは、よい結末だと思う。AIが理由と共に答えたことを人間が信頼するというフレームができれば、人間だけで考えるよりも、かえっていざこざが起こりにくくなるかもしれない、とのコメントがありました。

まとめ

終了後のアンケートでは参加者より、「非常に判りやすく、気付きが多かった」「AIの全体像が掴めた」「人とAIの役割について考える良い機会になった」「パネルディスカッションの質疑が的確で、興味深かった」「AIを使う人間に関フォーカスした課題は興味深く新鮮だった」「AIの活用の実態がどうであるか、今後の展望や課題について認識を深めることができた」といった好意的なコメントを多数頂きました。

栗原先生のお話をお聞きし、人間の世界をより良くするためにAIを利用することを前提として、人間とAIが役割分担をすることで、よりよい世界を築くことができるという希望を持つことができました。
また、2030年やその先に向けて、国がAIの利用基盤の整備を進め、中小企業が経営改善のためのリソースとして活用できるよう、我々中小企業診断士がサポートしていくことで、多様な中小企業の活性化に貢献できると確信しました。

ご参加頂いた皆さまおよび栗原先生はじめ関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。

湘南診断士ネットでは、今後もこのような機会を設け、中小企業診断士の知見を深めることへの貢献をしたいと考えております。

(文責:湘南診断士ネット 山本 邦博)

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