中小企業の経営資源集約化等に関する検討会 取りまとめ~中小M&A推進計画~

M&A

 4月28日付で、中小企業庁より「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」の取りまとめとして、「中小M&A推進計画」が公表されましたので、今回は、その概要を解説します。
 中小企業の事業承継においては、いわゆる「2025年問題」として、2025年までに70歳となる中小企業の経営者245万者のうち、半数の127万者は後継者が不在であるという課題がありました。こうした状況を踏まえ、中小企業庁では、事業承継の一つの手段として、M&Aによる第三者承継が有効であるとの観点から、2017年に「事業承継5ケ年計画」、2019年に「第三者承継支援総合パッケージ」などを策定しています。
 中小企業庁では、コロナウイルス感染症の影響や中小企業・小規模事業者の生産性向上を踏まえた事業再構築、事業統合・再編が重要であることから、2020年11月から「中小企業の経営資源集約化等に関する検討会」を設置、検討を行ってきました。今回は第6回目の最終となるため、今後、5年間に実施することが求められる官民の取組を「中小M&A推進計画」として取りまとめました。
 なお、本計画の目的は、あくまでも円滑なM&Aにより中小企業の経営資源を将来につないでいくことであり、中小企業の淘汰でないこと、M&Aはあくまで経営戦略実現の一つの手段であり、強制するものでないこととしています。


(URL:中小M&A推進計画)
  https://www.meti.go.jp/press/2021/04/20210430012/20210430012.html

1. 中小M&Aの意義

「中小M&A推進計画」では、あらためて中小M&Aの意義を以下のとおり、明記しています。 

●経営者の高齢化や感染症の影響等による廃業から経営資源の散逸を回避
●規模拡大等による生産性の向上や事業再構築等を実現
●他者の経営資源を引継ぎ、リスクやコストを抑えた創業(経営資源引継ぎ型創業)を促進

 M&Aが実施できない場合には廃業等に移行せざるを得ないですが、こうした場合でも一部の経営資源を引き継ぐことは重要です。こうした中、感染症の影響により、創業計画の見直しや延期を余儀なくされた創業準備者もいることから、他者が保有する経営資源を引き継いで行う創業(経営資源引継ぎ型創業)を希望する者も少なくありません。

2.中小M&Aの実施状況とこれまでの取組

 中小企業がM&Aに対して抱くイメージは改善傾向にあり、実施件数も年間3~4千件程度実施されています。市場としては、売り手が1割、買い手が9割で圧倒的な売り手市場となっています。中小M&Aの譲渡価格は3000万円以下が6割を占め、買い手(譲受側)の規模は、資本金1億円以下が6割を占めています。
 また、中小M&Aの実施形態は、事業譲渡と株式譲渡が中心であり、それぞれ4割を占めています。事業譲渡が選択される理由は、個別事業・資産ごとに譲渡可能であり、引き継ぐリスクの範囲を限定できるためです。一方、株式譲渡が選択される理由は、簿外債務等を引き継ぐリスクがあるものの、許認可等を含めてすべての権利義務関係を引き継ぐことが可能で、比較的簡便に手続が進められるからです。
 M&Aを実施する目的は、譲渡側(売り手)が「従業員の雇用維持」・「後継者不在」であり、一方、譲受側(買い手)は「売上・市場シェアの拡大」・「新事業展開・異業種参入」が多いです。
 M&A専門業者やM&Aプラットフォーマーの数は、2000年から増加しており、2020年末時点では370者存在し、地域金融機関における事業承継・M&A支援の取組も活発化しています。ただし、こうしたM&A支援機関の体制は4名以下が多く、小規模なものとなっているのが実態です。また、M&A支援機関がターゲットとしている譲渡側(売り手)の規模(年商ベース)は、仲介業者では1億~5億円、地域金融機関が5,000万円~3億円、事業承継・事業引継ぎ支援センターが5,000万円~1億円以下の小規模・超小規模案件に対応しています。(図表1)

図表1 中小M&Aマーケットの現状と方向性

出所:事業承継5か年計画 中小企業庁 2017年7月

 政府による支援としては、引継ぎの準備、M&Aの円滑化、M&A実施後の経営統合などといった段階ごとの支援策を講じています。2021年度税制改正では、経営資源の集約化により生産性向上等を目指す計画の認定を受けた中小企業が、計画に基づくM&Aを実施した場合、①設備投資減税、②雇用確保を促す税制、③M&A後のリスクに備える準備金の積立を認めるものでした。(図表2)

図表2 中小M&Aを推進するための主な支援措置

3.今後の中小M&A支援策の方向性

 潜在的な中小M&Aの対象者となる事業者数は、約60万者との試算もあり、中小M&Aは拡大途上であるといえます。今後、円滑にM&Aが実施できるよう予算や税制措置だけなく、制度的な課題にも対応する必要があります。「中小M&A推進計画」では、こうした制度的課題を含めた中小M&Aに関する基盤の構築として、以下の3点を掲げています。

1.事業承継等の準備を後回しにしている中小企業の存在  
2.中小M&Aを行う上での制度的課題の存在
3.中小企業におけるM&A支援機関に対する信頼感醸成の必要性

 課題1 事業承継等の準備を後回しにしている中小企業の存在


 M&Aを含めた事業承継を早期に準備するためには、中小企業と接点のある外部専門家(商工団体、地域金融機関、士業等専門家等)と連携が不可欠であり、気づきを提供する取組の拡充が重要です。しかし、実態としては、事業承継ネットワークによる事業承継を促すツールとして「事業承継診断」が活用されておらず、ネットワーク全体として具体的な支援内容が共有できていません。この事業承継診断については、今後、M&Aを含む事業承継に向けた具体的な行動につなげる診断や計画策定支援を行うために「企業健康診断」として発展的な見直しを行い、ネットワーク内で情報共有する仕組みを構築するとしています。

課題2 中小M&Aを行う上での制度的課題の存在

 
 所在不明株主(株主名簿に記載があるが連絡が取れない株主)が存在する場合、その保有株式を買い取るためには、会社法上、所在不明株主に対する通知が5年以上継続して到達せず、5年間剰余金の配当を受領しないことが要件となり、M&Aの実施プロセスで障害となっていました。よって、今後、経営承継円滑化法に基づき、5年間という期間を1年に短縮する特例を創設するとしています。
 さらに、事業譲渡において、事業運営に必要な許認可等は、原則として個別の根拠法の定めがない限り、譲受側に承継されないため、M&Aの実施に影響があるケースやM&Aを断念されることもありました。現在、中小企業等経営強化法により事業譲渡等の際に一定の許認可等の承継を認める特例がありますが、今後、この特例対象を拡充するとしています。

課題3 中小企業におけるM&A支援機関に対する信頼感醸成の必要性


  2020年3月に「中小M&Aガイドライン」を策定し、M&Aの基本的事項や手数料の目安を示すとともに、M&A業者に対する適切な行動指針が提示されています。しかしながら、中小M&Aの急拡大に伴い、M&A支援機関が急増したことから、十分な知見・ノウハウ等を有しないM&A支援機関も参入しています。
これにより、①M&Aに関する知見に乏しい中小企業が適切な支援の在り方を判断できない、②支援機関によるトラブルに関する情報を行政が把握する仕組みがないといった指摘がなされており、仲介に関する利益相反の懸念もあります。これについては、以下のような取組を行うとしています。


・URL:中小M&Aガイドライン
https://www.meti.go.jp/press/2019/03/20200331001/20200331001.html 

(1) M&A支援機関に係わる登録制度等の創設 


 事業承継・引継ぎ補助金(専門家活用型)において、M&A支援機関の登録制度を2021年度中に創設し、8月中旬から、登録を希望するM&A支援機関の公募が開始されます。これにより、M&A支援機関の活用に係る費用(仲介手数料やファイナンスアドバイザー費用等に限る)については、あらかじめ登録されたM&A支援機関の提供する支援に係るもののみが補助対象となります。
現在、IT補助金申請においてIT導入支援事業者になるためには、事前に事務局に登録要件を満たすために申請を行う必要があり、M&A支援機関の登録制度もこれに準じた運用となります。
 また、登録したM&A支援機関とのトラブルなど中小企業からの情報提供の受付窓口も創設されます。登録制度では、中小M&Aガイドラインの遵守を宣言することなどを要件とし、M&Aの成約実績等の報告を義務化します。
なお、この中小M&A支援機関に係る登録制度については、2021年8月2日付で中小企業庁より、その概要が公表されています。


URL: 中小M&A支援機関に係る登録制度
 https://www.meti.go.jp/press/2021/08/20210802007/20210802007.html

(2) M&A仲介等に係る自主規制団体の設立


 中小M&Aの仲介業者等を会員とした自主規制団体が2021年度中に設立されます。団体設立後、①中小M&Aガイドラインを含む適正な取引ルールの徹底、②M&A支援人材の育成のサポート、③仲介に係る苦情相談窓口の活動を行い、中小企業が安心して支援を受けられる環境の整備に努めるとしています。

 さらに、この計画では、事業再生・転廃業支援との連携の必要性も指摘しています。
現経営者での自主再建が困難である場合は、第三者であるスポンサーに事業譲渡・会社分割等を行うことで事業再生を図ることがあります。これはまさしくM&Aの一類型であり、M&A支援に当たっては、事業再生支援との連携強化が重要であるとしています。
 具体的には、事業承継・引継ぎ支援センターと中小企業再生支援協議会との連携強化による経営資源の引継ぎ支援、転廃業する場合の相談、専門家紹介までの支援、士業等専門家等の連携強化を推進することとなっています。

以 上

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