経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

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今回は、藤田耕司氏の「経営参謀としての士業戦略、AI時代に求められる仕事」(日本能率協会マネジメントセンター)というビジネス書を紹介したいと思います。藤田氏は、一般社団法人日本経営心理士協会代表理事で、特に、経営心理学の側面からコンサルティング事業を展開されています。

経営参謀としての士業戦略 - JMAM 日本能率協会マネジメントセンター 「人・組織・経営の変化」を支援するJMAMの書籍

 本書の論点は、「AIに士業の仕事が奪われる」といわれる時代に、士業は人間にしかできない仕事の一つである経営参謀を目指すべきであるというものです。ここでいう経営参謀とは、「相手が達成したい目的をより深く把握し、そのための手段を幅広い視点から提案し、達成を支援する人」と定義しています。

まず、本題に入るまえに、「AIに士業の仕事が奪われる」といわれる発端となった共同研究の報告内容について触れておくこととします。

野村総研と英オックスフォード大との共同研究

2015年、野村総合研究所は、英オックスフォード大学との共同研究により、国内601種類の職業について、それぞれAIやロボット等で代替される確率を試算しました。この結果、10~20年後に日本の労働人口の約49%が、それらに代替される可能性があることを指摘しています。

https://www.nri.com/-/media/Corporate/jp/Files/PDF/news/newsrelease/cc/2015/151202_1.pdf

その中では、以下のとおり、8士業においてもAIによる代替可能性が報告されています。

(注)AIによる代替可能性は2015年12月公表の、野村総研と英オックスフォード大との共同研究による「10 ~ 20 年後に、AIによって自動化できるであろう技術的な可能性」。資格試験の合格率は※が2017 年、その他は2016年。中小企業診断士の合格率は1次試験と2次試験の合格率を乗じたもの。

〔出典〕日経新聞2017年9月25日

弁理士、司法書士、公認会計士、税理士など、難関とされる士業でも確率が軒並み高くなっていますが、弁護士、中小企業診断士は「クライアントを説得する能力などが重要で、代替可能性は低い」としています。

本書では、こうした士業において「自動化されやすい業務」と「自動化されにくい業務」を検証しながら、AI時代に士業が仕事を獲得するためのアクションプランを紹介しています。

1.AI時代に士業が求められる仕事とは

技術革新による生産性の向上に伴い、複雑な判断を要しない定型化された手続や書類作成といったいわば「作業」は、既に自動化され、機械に置き換わりつつあります。一方、Web上に存在する専門知識も、現在では平易にわかりやすく提供されており、今後、「信頼性」といった問題はあるものの、こうした専門知識を有料で提供するビジネスモデルは成立しなくなるとしています。

こうした中、自動化できない仕事とは、「人間しかできない大局的な判断が必要な仕事、あるいは、人間対人間の仕事」とされています。大局的な判断とは、「経営判断のように顧客との関係性や同業他社の状況、財務状況、保有資産や設備の状況など、さまざまな複数の要素を複合的に勘案した判断」であり、「人間対人間の仕事」とは、対人コミュニケーションにより成り立つ仕事であるとしています。これら自動化されにくい仕事とは、「思考力・創造力が求められる仕事」・「人間性が求められる仕事」といった特徴をもっています。

本書では、8士業における業務の自動化の可能性や影響について記載されています。今後、会計士では「業務の4割程度はAIを導入する余地がある」とし、弁護士においても、「交通事故や単純な法律相談などはAIに奪われる可能性がある」ともいわれています。アメリカでは、既にAI弁護士が破産や倒産分野において法的な回答を行う事例があります。

一方、中小企業診断士業務における自動化の可能性については、次のように述べられています。

「中小企業診断士の業務は経営企画・戦略立案、販売・マーケティング、財務、人事・労務管理など、経営に関する幅広い業務が挙げられる。他の士業に比べるとコンサルティング業務の割合が多く、正に経営参謀として企業の経営に関わる業務が多い。そのため、他の士業と比べてAIによって代替される仕事の割合は少ないといえる」

この点は、野村総研の共同研究の結果とも整合性があるといえます。とはいえ、これは私見ですが、中小企業診断士において独占業務がないことは弱みになっており、他士業が経営参謀としてこうしたコンサルティング業務に注力してきた場合、大きな脅威になることも事実です。

2.AI時代の事業戦略

 今後、参謀が付加価値を発揮する事業戦略の一つとして、事業承継の支援を挙げています。後継者の経営力養成や経営へのアドバイスができる経営参謀の育成が必要であり、経営参謀としてのニーズは高いとされています。そのうえで、経営参謀として士業には4つの強みがあります。

  • ①法律や会計など経営に不可欠な分野の専門的知識や経験がある
  • ②多くの会社の経営課題に触れる機会がある
  • ③経営者と接点を持ちやすい
  • ④資格という社会的信用がある

こうした4つの強みを踏まえ、次のように士業の基本戦略を提案しています。

基本戦略1〕 

「自動化されやすい業務」は、効率化と低コスト化を行い、相場が下がっても利益が出せる体制を作る

〔基本戦略2〕

「自動化されやすい業務」の効率化によって生まれた時間を「自動化されにくい業務」の拡充に充て、参謀としての付加価値を高め、高単価で顧客を獲得する

「自動化されやすい業務」である単純作業については、AIソフトやクラウドサービスを積極的に活用し、省力化を図りながら、「自動化されにくい業務」である経営課題の解決に向けたコンサルティングメニューを開発することがアクションプランとなります。

まず、第一にお客さまの経営課題を把握したうえで、コンサルティングメニューとして、「自分ができることは何か」・「お客さまが望むことは何か」を検討・提案する必要があります。

経営者の悩みである経営課題とは、概ね「人や組織」、「営業やマーケティング」、「資金繰り」に集約されます。こうした経営課題を把握する場合は、士業としての専門分野に関連させ、経営者に対して「今後、会社をどうしたいか、そのために解決すべき課題は何か」といったアプローチをすることになります。

この際に、経営課題を引き出すために必要なスキルは、「質問力」と「共感力」にあるといいます。質問力とは、「こちらから主体的に課題を提示しながら、相手に思考させて、必要な情報を引き出す力」で、これにより飛躍的に課題把握力と提案力が伸ばせるとしています。一方、筆者は、AIなどの機械化が進めば進むほど、「人間」の時代として、他者に対して共感を表現する「共感力」という人間特有の付加価値が重要となってくると指摘しています。機械によって自動化されにくい仕事を獲得するためには、この「共感力」により、相手の課題を深く把握して提案の精度を高め、心を開いて提案を受け入れていただく関係を築けるかどうかが大きなカギとなります。今後、士業には、専門知識と経験に加えて、「質問力」と「共感力」を身につけて高い提案力を発揮することが求められています。

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