新型コロナウイルス感染症の蔓延でお客さまへの営業訪問ができず、既存のお客さまとの関係維持や新規のお客さま開拓が思うようにできない中小企業の皆さまが多いことと思います。
受注が減っていても、お客さまの状況が分かりづらいため、コロナ禍による需要の減退のせいなのか、競合に受注を奪われているのかも分らない、という方もおられるかもしれません。
新型コロナウイルスの感染を恐れ、お客さまから訪問営業を断られたり、自社の従業員が他社へ訪問することを控えているケースも多いと思います。お客さまや従業員の健康を第一に考えると、無理やり訪問させる訳にもいきません。
そこで注目されているのが、非対面で営業を行う「インサイドセールス」です。ここでは、中小企業でも導入しやすいオンライン商談を中心にお伝えします。
インサイドセールスとは?
インサイドセールスとは、訪問営業(フィールドセールス)に対して、お客さまを訪問せずに、電話やZoomなどのオンライン会議システムを使用して商談を行う営業の形態で、アメリカが発祥と言われています。国土が広いアメリカでは見込み客の訪問には膨大な時間と旅費が掛かって効率が悪いことから、営業の生産性を高めるために普及しました。
日本では、長年、営業は足で稼ぐもの、見込み客のもとに足繁く通って誠意を見せることで受注につなげるといった根性論が根強く残っていましたが、ここ数年、「働き方改革」の一つとして、インサイドセールスを導入する企業が増えてきました。同時に、Zoomをはじめとする高性能だが安価で手軽なオンライン会議システムが次々に登場しました。この流れに拍車を掛けたのが、新型コロナウイルス感染症の蔓延で、これによって、オンライン会議や脱ハンコなどのデジタル化と共に、インサイドセールスが一気に普及しています。
インサイドセールスは有効か?
お客さまを訪問せずに営業活動ができれば効率的ですが、それで効果があるのでしょうか。
HubSpot Japan株式会社が2019年10月に企業で商品やサービスを買う立場と売る立場の方に対してそれぞれ行った調査結果* をご紹介します。
- 買い手のうち、売り手の営業担当者の訪問を望まない方が29.4%
- 買い手のうち、売り手の営業担当者の訪問を望む方(全体の70.6%)の理由は、気持ちの面が大きく合理性はない
- 第1位:顔を見ずの商談には誠意を感じない(35.2%)
- 第2位:営業担当者の顔を見ると安心感がある(30.1%)
- 売り手のうちインサイドセールスを行っている組織・行っていない組織それぞれの営業担当者に尋ねたところ、自身の商談成約率はそれぞれ39.6%、41.6%と大きな差がない
つまり、そもそも訪問営業を望んでいない方が30%程度で、訪問営業で買い手に「誠意」や「安心感」を示したとしても、それが成約率を大きく押し上げているわけではないという結果になりました。
インサイドセールスのメリットとデメリット
インサイドセールス(内勤営業)とフィールドセールス(訪問営業)のメリットとデメリットは、下表のとおりです。
インサイドセールス(内勤営業) | フィールドセールス(訪問営業) | |
---|---|---|
メリット | ・移動が不要なので、距離によらず、短時間に多くのお客さまに会える ・交通費が掛からない ・営業の様子を上司や部下が見ることで、本人や部下の育成になる ・営業担当者の採用条件を、在宅勤務者や短時間労働者に拡大できる | ・お客さまとの信頼関係が築きやすい ・複雑な話ができる ・お客さまの内情や競合の動きなど、機微な情報が得やすい |
デメリット | ・お客さまとの信頼関係が築きにくい ・お客さまの表情や感情が伝わりにくく、臨機応変に対応しづらい ・複雑な話がしにくい ・通信状態が悪いと、会話が途切れたり遅延したりして、意思疎通が困難になる | ・1日に訪問できるお客さまの数が限られ、遠距離のお客さまを訪問しづらい ・訪問1件当たりの営業担当者の人件費、交通費などのコストがかさむ ・営業ノウハウを他の営業担当者と共有しづらく、属人化しやすい |
インサイドセールスはフィールドセールスに比べて低コストで効率が高いので、営業の量を稼げるものの、お客さまとの信頼関係の形成や、伝達・収集できる情報の質・量といった営業の質が高めづらいといったデメリットがあります。
オンライン会議システムを使っても、お客さまがカメラをオフにしたままでは、お客さまの反応や表情が分からず、一方的な会話になりがちです。
しかし、インサイドセールスであっても営業の質を上げるための工夫を行い、実際のインサイドセールスの場面で、オンライン会議システムの画面を他の営業担当者と共有することで、好事例の展開や改善点の指摘などを受けて、営業担当者の育成やスキルアップを進めることができます。自社で標準的なインサイドセールスの型やチェックポイントを作れば、営業スキルが見える化され、営業の属人化を防いで、営業担当者の育成を加速することができます。
インサイドセールスの導入
既存顧客に対する営業
関係構築ができている既存顧客に対して、オンライン会議システムを使って商品や業界動向の情報を提供したり、顧客の状況をヒアリングするなどは、比較的ハードルが低く導入しやすいと言えます。高額な商品や説明が難しい商品でなければ、新たな商品を受注するなど契約段階にも活用できます。
見込み客に対する営業
問合せや資料請求をされた方や、セミナーや展示会の参加者などの見込み客が、どの程度自社の商品に関心があるかを確認することは、営業効率を高めるために必要です。初めは電話で意向を確認するとして、次のステップとして従来の訪問営業に代わってオンライン会議を行うことで、たとえ見込み客が多くても、少人数の営業担当者で効率的に見込み客の重要度を見極めることができます。
インサイドセールスと訪問営業の組み合わせ
受注の確度の高い見込み客や、高額な商品、説明が難しい商品などでは、必要に応じて従来通りの訪問営業によって受注につなげます。インサイドセールスで効率的に見込み客を絞り込み、訪問営業で受注するなど、営業プロセス全体で効率を高めることを検討しましょう。
オンライン会議システム利用上の注意点
オンライン会議システムを用いた商談では、お客さま側がカメラをオフにしていてお客さまの表情が見えないと話にくいですが、こちら側は必ずカメラをオンにして、カメラの向こう側のお客さまの姿を想像し、お客さまから常に見られていることを意識して、話したりお客さまの話を聞いたりするよう心掛けます。
また、お客さまがカメラをオンにした場合でも、話が盛り上がらず、一方通行の会話になりがちです。その原因は、「うなずき」が減ることと、視線が合わないことです。
人間は対話をするときには、相手の反応を見ながら話を進めます。そして相手が自分の話に興味を持ってくれると感じると、承認欲求が満たされ、気持ちよく話をしてくれます。
うなずきや、視線を合わせることは、相手に対して、「自分はあなたの話を興味深く聞いていますよ」というサインなのです。たとえお客さまがカメラをオフにしていても、以下を心掛けてください。
大げさにうなずく
普段と同じようにうなずいているつもりでも、カメラでは人の動きが平面的にしかとらえられないため、普段の3倍くらいのオーバーアクションをしないと動きが分かりません。したがって、オンライン商談ではお客さまの話には、多少大げさなくらいうなずいたり、お客さまの話を妨げない程度に「なるほど」などと相槌を打ったりするとよいでしょう。
カメラを見て会話する
オンラインではつい画面に映った相手に視線を合わせますが、自分の画像はカメラで撮影しているため、カメラ目線ではなく画面に視線を合わせると、相手と視線が合いません。したがって、相手の話を聞くときや、相手に話しかけるときには、カメラ目線を心掛けましょう。
また、カメラを見下ろすような位置に座ると、上から目線の画像になって相手が話しにくくなります。ノートパソコンの場合はパソコンを台に乗せるなどして、できるだけカメラと視線が水平になるようにしてください。
今こそインサイドセールスをはじめよう!
新型コロナウイルス感染症の蔓延で、Zoomをはじめとしたオンライン会議システムが急速に普及し、また、感染防止のために来訪者を避けたいという意識が高まるなど、お客さまにとってもオンライン商談への抵抗感が薄れてきています。今こそ、オンライン商談を始める絶好のチャンスなので、この機を逃さず、営業の生産性向上、営業スキルの見える化を進め、営業力を強化していきましょう。