同一労働同一賃金に向けた実務対応

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はじめに

いよいよ、パートタイム・有期雇用労働法の改正に伴い、中小企業においても2021年4月1日から正社員と非正規雇用労働者(パート・契約社員)の間の不合理な待遇差が禁止される「同一労働同一賃金」が適用されます。  

エン・ジャパンが2020年12月23日~2021年1月26日の期間に実施した中小企業150社のアンケート調査によると、「すでに対応が完了」と「取り組んでいる最中」とした企業は合わせて約5割にとどまり、「待遇差が不合理であるかどうかの判断が難しい」と「対応後に人件費が増加する」といった課題があると回答しています。

中小企業における同一労働同一賃金への対応状況

出所:エン・ジャパンの人事向け情報サイト「人事のミカタ」

ここでは、厚生労働省の関連サイトに基づき、同一労働同一賃金の実現に向けた対応と留意点を解説していきます。また、特に中小トラック運送事業者における正社員と非正規雇用労働者の待遇差をめぐっては、同一労働同一賃金に向けた基本的な考え方ともなる最高裁判所の判例が示されており、こうした判例を踏まえた中小トラック運送事業者の取組み事例も紹介します。

1.パートタイム・有期雇用労働法の主な改正点

 パートタイム・有期雇用労働法の主な改正点は、以下のとおりで、このうち、(1)不合理な待遇差を解消するための規定の整備が、同一労働同一賃金に向けて取組むべき内容となります。

(1)不合理な待遇差を解消するための規定の整備

  • ①同一企業内において、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止された。
  • ②裁判の際に判断基準となる「均衡待遇規定」「均等待遇規定」が法律に整備された。
    • 均衡待遇規定について、個々の待遇ごとに、その待遇の性質・目的に照らして適切と認められる事情を考慮して判断されるべき旨が明確化された。
    • 均等待遇規定について、新たに有期雇用労働者も対象となった。
  • ③同一労働同一賃金ガイドライン(指針)において、どのような待遇差が不合理に当たるか等を例示した。

(2)非正規雇用労働者に対する待遇に関する説明義務の強化

 非正規雇用労働者から求めがあった場合には、事業主は正社員と非正規雇用労働者の間の待遇差の内容、その理由について説明することが義務化された。

2.同一労働同一賃金に向けた準備の進め方

厚生労働省では、同一労働同一賃金の実現に向けて企業の取組みを支援するため、以下のようなマニュアルを整備しており、手順に基づいて待遇差の点検・見直しを進めることができます。さらに同省の「パート・有期労働ポータルサイト」においても、改正後のパートタイム・有期雇用労働法で求められる企業の対応について情報提供を行っています。

  • パートタイム・有期雇用労働法対応のための取組手順書
  • 不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル
  • 職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル
  • 同一労働同一賃金ガイドライン

(1)不合理な待遇差を解消するための考え方

パートタイム・有期雇用労働法により、正社員と非正規雇用労働者との間で、基本給や賞与、手当などあらゆる待遇について不合理な待遇差を設けることが禁止されますが、その中心となる考え方が「均衡待遇」と「均等待遇」となります。(図表1)

  • 均衡待遇
    • ①職務の内容(業務の内容および責任の程度)
    • ②職務の内容・配置の変更の範囲、
    • ③その他の事情(注)の違いに応じた範囲内で待遇を決定する必要があり、不合理な待遇差を禁止

注)その他事情とは、職務の成果・能力・経験、合理的な労使慣行、労使交渉の経緯、待遇差の説明義務、定年後再雇用、正社員登用制度など

  • 均等待遇
    • ①職務の内容(業務の内容および責任の程度)②職務の内容・配置の変更の範囲が同じ場合、その待遇について同じ取扱いをする必要があり、非正規雇用労働者であることを理由とした差別的取り扱いを禁止

図表1 均等待遇の対象/均衡待遇の対象

資料出所:厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応」

「職務の内容」、「職務の内容・配置の変更の範囲」の両方が正社員と「同じ」場合には、「均等待遇の対象」、それ以外の場合には「均衡待遇の対象」となります。(図表2・3)

図表2 「職務の内容」が同じか否かの判断手順

資料出所:厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応」

図表3 「職務の内容・配置の変更の範囲」が同じか否かの判断手順

資料出所:厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応」

基本給、賞与、諸手当、福利厚生など個々の待遇については、均衡待遇・均等待遇の判断基準となる「同一労働同一賃金ガイドライン」において、いかなる待遇差が不合理となるものかを具体的に例示しており、個別に判断することができます。

たとえば、賞与については、「会社の業績への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者又はパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じて支給をしなければならない」としています。

一方、最高裁判決において、アルバイトに対して賞与を支給しないことは不合理な待遇差には当たらないとする判断が示されています。しかし、これは、すべての非正規用労働者に対して賞与を支給しなくてもよいと示されたものではなく、現状、正社員のみに賞与を支給している場合、今後、非正規雇用労働者に対する人事評価を前提に一定額の賞与を支給する必要性は否定できないものといえます。

但し、ガイドラインでは、住宅手当、家族手当および退職金に関して原則となる考え方が示されていません。これら手当には、トラック運送事業者において待遇差の合理性が争われた判例があり、それぞれの支給目的、判決理由が待遇差を検討するための参考事例となります。(図表4・5)

図表4 裁判例が示す「不合理な待遇差」と「不合理でない待遇差」

裁判例1 ハマキョウレックス事件(平成30年6月1日最高裁判決)

資料出所:厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応」

図表5 裁判例が示す「不合理な待遇差」と「不合理でない待遇差」

資料出所:厚生労働省「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル~パートタイム・有期雇用労働法への対応」

なお、退職金については、最高裁判決において、契約社員に対して退職金を支給しないことは不合理な待遇差には当たらないとする判断が示されています。しかし、待遇差の合理性を判断する具体的な基準が明確になったとはいえず、正社員のみ退職金制度を設けている場合、なんらかの実務対応が必要になる可能性もあります。

いずれにしても、こうした待遇差は、個々の待遇の「性質・目的」を踏まえ、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情に基づいて判断されるため、法の趣旨に沿ってその違いを設けている理由が「不合理ではない」と説明できれば、すべての待遇を同じにする必要はありません。

(2)同一労働同一賃金に向けた4段階の進め方

ここでは、前述した「不合理な待遇差解消のための点検・検討マニュアル」を参考に具体的な同一労働同一賃金に向けた4段階の進め方を示しています。

第1段階:現状の社員タイプの整理、「均衡待遇」、「均等待遇」の対象労働者の確認

 ⇩

第2段階:社員タイプごとに待遇の現状を整理、待遇の違いを確認

 ⇩

第3段階:待遇の「違い」が不合理か否かを点検・検討

 ⇩

第4段階:待遇差の是正策を検討

なお、第3段階では、均等待遇が求められる場合、すべての待遇について正社員と同じ取扱いにすることが義務付けられており、待遇の「違い」が不合理か否かを検討する必要はありません。ここでは、均衡待遇が求められる場合、待遇の「違い」が不合理か否かを点検・検討することになります。

正社員と非正規雇用労働者との間で、待遇に関する決定基準が異なることは問題がありませんが、単に「将来の役割期待が異なる」といった抽象的な理由ではなく、①職務の内容、②職務の内容・配置の変更の範囲、③その他の事情に基づいて、不合理でないと客観的・具体的に説明できることが必要となります。

3.非正規雇用労働者の待遇改善に向けた助成金制度

  非正規雇用労働者に対する正社員化や処遇改善に向けた助成制度としては、「キャリアアップ助成金」が活用でき、処遇改善に向けた原資の確保にもなります。これは、事業主がキャリアアップ管理者を置き、キャリアアップ計画を作成した上で、当該計画に沿って、所定の取組みを実施した場合、一定の助成が受けられるものです。

なお、「キャリアアップ助成金」の活用にあたっては、事前にキャリアアップ計画を労働局・ハローワークへ提出し、認定された後、取組みの実施・支給申請を経て、支給審査・支給決定、受給といった流れになります。

4.中小トラック運送事業者における取組み事例

最後に、このような同一労働同一賃金に向けて実務対応を行った中小トラック運送事業者A社の具体的な取組み事例を紹介します。

A社では、パート社員(運転職)の一部を正社員として活用したいといった人事制度上の考え方があり、正社員登用制度の導入を検討していました。そのうえで、職務分析・職務評価を実施したところ、正社員・パート社員における待遇差が明確になったことから、従来の人事制度を全面的に見直したものです。

トラック運送業者 A社

  • 運転職: 38名(正社員20名、パート社員10名、嘱託社員3名、派遣社員5名)
  • 職務内容:ルート配送
  • 事務職:  7名(正社員5名、パート社員2名)

〔課題〕

A社では、慢性的なドライバー不足が続いており、正社員とパート社員の賃金差も少なからずあったことから、パート社員の採用が困難で定着もあまり良くなかった。正社員において人事制度は運用されていたが、パート社員には明確な賃金制度はなく、人事評価も実施されていなかった。同一労働同一賃金への対応を契機として、正社員とパート社員を対象として新たに人事制度を整備し、処遇改善を図ることで、モチベーションの維持と定着率の向上に取組むこととなった。

〔パート社員の主な処遇改善と制度見直し〕

  • パート社員(運転職)に3ランクの職務等級を導入、正社員(運転職)の職務等級と連動させながら、キャリアアップを図る。
  • 基本給は職務等級に応じて号俸運用する賃金テーブルを設定、年2回の人事評価に基づいた定期昇給を実施する。
  • 賞与は人事評価点に連動した額を設定、業績に応じて支給する。
  • 正社員に支給している「無事故手当」をパート社員(運転職)にも支給する。
  • 退職金制度として、正社員と同様に中小企業退職金共済制度を活用する。
  • 正社員登用制度を導入、所定の要件を満たしたパート社員を正社員化する。

おわりに

同一労働同一賃金は、非正規雇用労働者の処遇改善による人件費増加から収益に多大な影響があるとの意見もありますが、一方、業務効率化により一層の生産性向上を図る契機になるとも考えられます。

また、同一労働同一賃金の適用は、単に非正規雇用労働者の待遇差解消といった法対応の側面からでなく、人事制度の整備を図りながら、「非正規雇用労働者をどのように活用するか」といった視点も必要となります。たとえば、活用の仕方としては、①非正規雇用労働者のほぼ全員を正社員なみに活用したい、②非正規雇用労働者の一部を正社員なみに活用したい、③非正規雇用労働者を補助的業務に活用したい、などがありますが、活用の仕方に応じて異なる人事制度上の仕組みが必要となるため、職務分析・評価を通じ、現状の人事制度に対する課題を整理しなければなりません。こうした人事制度を見直すことで、非正規雇用労働者の定着率やモチベーション向上に寄与するものと考えられます。

〔参考文献〕

  • 同一労働同一賃金 対応の手引き 労務行政 2019年
  • 同一労働同一賃金 ガイドラインに沿った待遇と賃金制度の作り方 第一法規 2019年
  • 実例に基づくトラック運送業の賃金制度改革 日本法令 2016年 
  • 厚生労働省 同一労働同一賃金関連サイト 他

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