スーパーまるまつ 異なる性格の施策を複合したトライアスロン経営

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須藤 和夫

この文章は同友館「月刊 企業診断」2019年7月号 の 「特集 中小企業白書
の読み方第1部 2019年版を読む」 に掲載された記事の原稿です。
雑誌はB5判2段組でレイアウトは異なりますが、文面は同じです。
尚、たまたまですが、記事にある40年以上前の
POS導入は私が担当し、縁を感じた次第です。

はじめに

 福岡県柳川市は有明海に面する城下町。川下りや名物の鰻を楽しみに訪れた方も多いと思う。白書の事例3-1-1に紹介されている株式会社スーパーまるまつは、同市の中心部に1店舗を構える典型的なローカル・スーパーマーケット(以下、スーパー)である。
 だが、同社はTV番組の「日経スペシャル ガイアの夜明け」や「カンブリア宮殿」(いずれもテレビ東京系列)で紹介され、また、経済産業省の「IT経営百選」、サービス産業生産性協議会の「第2回 ハイ・サービス日本300選」などの輝かしい受賞歴も持っている。
 同社は白書で「徹底した効率化と既存顧客の単価向上・固定客化によって同地域におけるシェア1位を維持し、創業以来無借金経営を継続している」とされているが、それはトライアスロンのように異なる性格の施策を複合させた経営努力を続けてきた結果である。以下、それを見ていきたい。

1.取り巻く環境と業績

 柳川市の人口は2019年3月で約6万6,000人。ここ9年間で7%減少している。年齢構成は15~64歳が全国平均より4.4ポイント低く、逆に75歳以上が10ポイント高い高齢化を示す。市場は縮小しているが、競合は「にしてつストア」をはじめ、チェーン店を含めて23店舗あり、競争は激しい。
 この環境の中で同社は、従業員24人、年商12億円(1人当たり50百万円)、経常利益率約4%と想定されている。小規模スーパーの標準的な経営指標である「26百万円、1%前後」より、はるかに高い生産性を上げていることになる。

2.データに基づく高効率経営

⑴ POSの活用

 同社では40年以上前からPOSを使用している。日本のスーパーで初めてJANコード読み取りが行われたのも同時期だが、セブン‐イレブンが1982年にPOSを導入するまで、JANコードの商品印刷は普及しなかった。同社はPOSによる単品管理の先駆者と言える。
 POSデータから売れる商品・高利益商品・在庫がわかり、天候データや競合のバーゲン情報、地域の催事などのデータを加味した販売予測まで把握できるため、1日・週単位で売場と商品を改善できる。さらに、後述の会員カードから得られるデータと合わせると「売れることがわかっている」商品が揃えられる仕組みが出来上がっている。

⑵ 強力な会員システム

 同社の「トクとくカード」(会員9,000人)は、会員にはポイント還元に加え、会員限定価格や月間買上額に応じて大きくなるボーナスポイントが与えられる特典がある。また、優良顧客に対しては、ダイレクトコールのほか、旅行をはじめとした顧客向けイベントの抽選権付与など、満足させる体制が整っており、強力な会員システムである。
 そのために、会員カードの利用率は買い上げ客の90%という驚異的な割合になっており、顧客属性に応じた品揃えが可能になっている。

⑶ 仕入れの複線化

①消化仕入れ

 同社は、取引先120社中35社と消化仕入を行っている。一般の買取仕入は、仕入れた時点で所有権が問屋から店に移動し、同時に支払義務も発生する。消化仕入は、所有権は問屋が持っており、販売された時点で仕入を行う。これは小売側に有利な取引で、不良在庫の危険を防ぐことができる。そのため、販売側交渉力のある百貨店で多く見られ、また、高価なブランド品の在庫負担に耐えられない商店に対し問屋側が適用するケースもある。
 スーパーでこの仕入れを行うのはかなり異色だが、同社の強力なPOSデータが貢献していると見られる。また、トヨタ生産方式に近い考え方で、問屋に在庫だけでなく売り場の管理も任せている。
 仕入品目は明らかになっていないが、いわゆるCランク商品、すなわちスーパーとしては主力ではなく、細かい管理で手間をかけるより運営コストを下げるほうが良いと判断した商品に対して、適用していると推察される。

②生鮮4品の仕入

 一方、利益率が高く競合と差別化できるスーパーの生命線である生鮮4品は、まったく異なる扱いになっている。同社が公表している「企業使命感」は「応援します あなたの暮らし新鮮良品こだわりの店」。効率化で浮いた人的資源を集中的に生鮮に配備して、仕入れたものを売り切る体制をとる。ロス率は驚異的に低い2%とされている。

⑷ チラシの廃止

 チラシは多くのスーパーにとって主要な販促手段である。一方、印刷費に加え、配送費もかかるうえに、情報は少なくとも数日遅れになるため、その間の価格は固定される、などの短所がある。
 同社では、店に来れば何か良いものが見つかるという期待感を固定顧客に持たせることができているために、チラシ廃止が可能になったと考えられる。また、チラシだけで集まるバーゲンハンターを防ぐという副次効果もあるだろう。

3.コトを提供する経営

 同社の経営方針では、前述したモノを売るための効率化と同時に、顧客に対してコトを提供する施策が大きな比重を占めている。たとえば、前出の景品旅行は、顧客と直接対話する機会として重視されている。また、2,500円以上の購買客には送迎サービスを提供している。このような施策は効率経営とは逆に見えるが、地域顧客を大事にする「あっても良い無駄」として同社が重視している点に、その経営姿勢を感じさせる。

おわりに

 同社は顧客に密着した街の食品店としての顔と、高度な情報活用で効率化された顔を併せ持つユニークなスーパーである。将来、ネットスーパーのように従来の距離的な商圏を壊し、遠方の顧客を吸い込む強敵が現れる可能性はある。これを同社がどのようにはね返し成長を続けるのか、トライアスロン経営の新たな施策を期待したい。

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