心と身体を整えるマインドフルネス

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人間はストレスにさらされると疲れを感じます。今年は特にコロナ禍の影響で、仕事や生活の先行きが不透明なことや、三密を避けるために人との接触が減ったことなどから、人々の不安や不満が高まった、ストレスの多い一年だったと思います。そのため、身体がだるい、疲れやすくなったという方が多いのではないでしょうか。

そこで、ストレスに負けない、疲れにくい心と身体をつくるためのトレーニング方法である「マインドフルネス」をご紹介します。

脳が疲れるメカニズム

エネルギーを浪費する脳

成人の脳の重さは約1,400gで体重の2%程度の重さしかありませんが、身体が消費するすべてのエネルギーの約20%を消費するといわれています。さらにその約20%のエネルギーのうち60~80%は、デフォルト・モード・ネットワークという脳の回路で消費されています。このデフォルト・モード・ネットワークは脳が意識的な活動をしていないときに働いており、自動車で言えばアイドリングのような状態です。つまり、脳は何も考えずにただボケっとしていても多くのエネルギーを浪費しており、どんどん疲れていくのです。これが脳の疲れの正体です。

デフォルト・モード・ネットワーク

私たちは、例えば通勤電車に乗って何もせずに座っているときや、人の話を聞いている最中であっても、それに集中できずに、頭の中にさまざまな考えが浮かびます。今日の夕飯に何を食べようかと思った直後に、仕事の予定が思い浮かんだり、シャンプーの残りが少ないので買って帰ろうなどと、まったく脈絡のない雑念が、ビールの泡のように次々と浮かんでは消えていきます。

また、歩きながらスマホを見たり、スマホを見ながら食事をするなど、マルチタスクでいろいろなことを同時に行おうとすると、集中力が失われてしまいます。

このように意識を集中できずに心がさまよっている状態では、デフォルト・モード・ネットワークが活発に働いているため、脳のエネルギーを浪費しているのです。そしてこのような状態が人間の脳の活動の大半を占めていると言われています。 従って、日常生活の中でも雑念に身を任せることやマルチタスクを止めることで、デフォルト・モード・ネットワークの活動が抑えられ、脳を休めることができるのです。

マインドフルネスとは?

雑念を追わず、今、ここに集中する

マインドフルネスには、デフォルト・モード・ネットワークを抑制して、疲れにくい脳を作る効果があります。その方法は至ってシンプルで代表的なものは瞑想です。瞑想によって、雑念が浮かんでも放っておくことで、デフォルト・モード・ネットワークの活動を低下させることができます。

雑念の正体は、過去の出来事を悔いたり、未来を思い悩んだりすることですが、これらは現実ではなく心の働きによって生まれた幻想であるため、いくら考えても解決することがなく、浜辺に打ち寄せる波のように、絶え間なく繰り返しやってきて私たちを悩ませます。

マインドフルとは気がつく、心を配るという意味で、マインドフルネスとは、自分の状態を客観視することによって今の自分の心の動きに気づき、気づくことで過去や未来への思い悩みから距離を置き、それを手放すための技法です。

過去や未来への思い悩みから距離を置くために、「今この瞬間」と「ここに存在する自分」に思いを集中させます。「今」と「ここ」は幻想ではなく、紛れもない現実であり、心を現実に集中することで心が雑念を追ってさまようことを防ぎます。

4500年の歴史

マインドフルネスの起源は約4500年前にインドで始まったヨガの瞑想にさかのぼります。ヨガ瞑想は約2500年前にブッダに引き継がれて仏教が生まれ、仏教が中国を経由して約1500年前に日本に伝わり、鎌倉時代に禅宗が起こり、座禅が武士の間に広まりました。

その後、1979年にマサチューセッツ大学医学大学院教授のジョン・カバット・ジンが脳科学の知見を基に宗教性を排除した医療プログラム「マインドフルネスストレス低減法」を開発して医療分野に応用されました。そして、2007年にGoogleがマインドフルネスをベースにしたサーチ・インサイド・ユアセルフという社内研修プログラムを開発し、社員のパフォーマンスが大きく改善されたことから、ビジネスの世界でも注目されるようになりました。

マインドフルネスをやってみよう

それではマインドフルネスの初歩として手軽にできる瞑想(いす座禅)を紹介します。1日5分間程度のいす座禅を行うだけでも脳の疲れが取れ、心身ともにリフレッシュして疲れにくい脳と身体に変化していきます。

座禅の基本は「調身、調息、調心」です。まず姿勢を整え、次に呼吸を整えることで、心が整います。 静かな部屋で照明を消すなどしてできるだけ落ち着いた環境で、座面の固い椅子を用意します。

調身

姿勢を安定させ、腹式呼吸をしやすくするために姿勢を整えます

まず、椅子の背に背中を付けないようにして浅く腰掛けます。上体を垂直に保ち、頭のてっぺんで天井を押し上げるようなイメージで腰骨を立てます。

次にアゴを軽くひき、肩や胸から力を抜き上体をリラックスさせます。

目は完全に閉じるのではなく、半眼といって、前が薄ぼんやりと見える程度にまぶたを下し、頭を下げずに視線を1.5mほど前方に落とします。

口を閉じて舌は上あごに付けます。

手は、右の手のひらを上に向け、その上に左の手のひらを重ねて左右の親指が軽く触れるようにして、ももの付け根に置きます。

調息

呼吸は「心のアンカー(碇)」とも言われ、呼吸を意識することで雑念の荒波から「今、ここ」に意識を集中することができます。人は呼吸を止めると生きていけないので、呼吸は常に「今」行われ、呼吸をしているのは紛れもなく「ここ」にいる自分自身です。呼吸を意識することは、マインドフルネスの基本である「今、ここ」に意識を集中するために非常に有効な手段です。

呼吸は複式呼吸で行います。深い腹式呼吸をすることによって全身の隅々の細胞まで酸素を行き渡らせ、血行が良くなります。さらに副交感神経が優位になって気持ちが落ち着き、リラックスできます。

腹式呼吸は息を吸うときにお腹を膨らませ、息を吐くときにお腹を引っ込ませる呼吸です。息を吐くときはゆっくりお腹を引っ込ませながら口から息を吐き、肺の中の空気をすべて吐き出すつもりで長く息を吐きます。息を吐き切ったら、口を閉じて引っ込ませたお腹の力を抜くと、瞬時に鼻から息が入ります。

この深呼吸を3回行った後は、鼻から息を吸って、鼻から吐く呼吸に移行します。

調心

静かに呼吸に意識を集中します。雑念が浮かんできた時は「今、雑念が浮かんでいる」ということを意識し、それ以上に雑念に立ち入らず、意識を呼吸に集中してください。息が鼻から肺に入っていく様子や鼻からゆっくりと吐き出される様子をもう一人の自分が観察しているイメージを持ち、雑念に気を取られないようにします。

5分経ったら、目を開けてゆっくりと立ち上がります。

日々の生活にマインドフルネスを

毎日5分間という短時間でも瞑想を行うことで、雑念が脳のエネルギーを無駄遣いするのを止めて脳を休ませることができます。毎日、継続して行うことで、恐れや不安の感情を生み出す扁桃体が縮小したり、記憶を司る海馬の灰白質の密度が増加したり、知覚や思考を司る大脳皮質が厚くなるなど、脳の構造が徐々に変化し、疲れにくい脳になっていくことが脳科学で証明されています。

できるだけ、同じ時刻に同じ場所で行って習慣化することで脳を変化させ、ストレスに強い、疲れにくい心と身体を作っていきましょう。

(参考図書)
 「最高の休息法」久賀谷 亮 ダイヤモンド社 2016年
 「サーチ・インサイド・ユアセルフ」チャディー・メン・タン 英治出版 2016年

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